[相手の立場になって考える]成果を出す営業マンになる 1. メーカー系の事例
今回は、「営業で成果を出す」ことについてです。
営業マンの皆さんは、上司や先輩から「もっと相手の立場に立って考えなさい」「お客さまの立場で考えてみなさい」というアドバイスを受けたことはありませんか?
そのアドバイスはもっともで、確かに「成果をあげる営業マン」と「そうではない営業マン」の大きな違いは、ここにあります。
そこで「相手の立場で考える」「お客さまの立場に立つ」という営業の基本と、マーケティングの基本的概念である「顧客志向」そのものを理解しましょう。
「相手の立場になって考える」基本事例1
~AIロボットメーカーの営業担当のケース~
ある工業用ロボットを製造しているメーカーの営業マン、鈴木さん(仮名)の事例です。
このAI搭載ロボットを使うと、生産効率をそれまで人間がやっていた仕事の100倍以上に上げることができるのがウリです。
人がやると1時間に100個しかできなかったのが、このロボットは10,000個も生産できるのです。
しかも多品種少量対応型で、少し操作するだけで違うものを生産できるという優れものです。
プレゼンには手ごたえがあったのに不採用
ある会社の購買部長がこのロボットに興味を示し、アポイントが取れました。
早速、鈴木さんは自社製品のカタログ、既に作ってあるYouTube動画、実績表などを用意し、その会社に訪問しました。
そして、自社製品のスペックの良さ、とりわけ「生産性の良さ」をがんがん説明します。
相手の購買部長も熱心に聞いてくれます。時々質問もしてくれます。良い感じです。
競合他社製品の話題になり、自社製品との比較数値を求められました。
鈴木さんは、数値を特に誇張したり他社製品を批判することなく、丁寧に説明しました。
そのころには購買部長も、製品についてある程度の理解ができたようでした。
鈴木さんも手ごたえを感じています。
そして購買部長は「熱心な説明ありがとう。現場とも話して、採用についてはご連絡します」ということで終了しました。
しばらくして、不採用の連絡がありました。
なぜでしょうか? あんなに盛り上がっていたのに…
「お客さまの立場に立っているか?」という検証
鈴木さんの説明は製品スペック中心で、自社製品の説明ばかりが多かったのです。
他社製品との比較もありましたが、これもスペックの比較だけでした。
では、相手の立場に立って考えるとどうなるか、を推測してみましょう。
相手には課題が山積している
仮にこの会社がこの製品を導入し、スペック通りの仕事をするとします。
それにより、そこで働いている労働者が仕事を失うことになります。
ですから、まずはその労働者の配置転換先を考えなければなりません。
また、そのロボットがスペック通りの仕事をするためには、操作方法や機械の設定方法をマスターする必要があります。
今のところ、職人技をこなしてくれるロボットはまだまだ少ないのが現状です。
希望どおりの稼働レベルに到達するには時間がかかることが想定されます。
つまり、
・既存の現場労働者の配置転換
・ロボット据え付け後の本格稼働までの時間やコスト
・本格稼働後の生産性の推定
・ロボットを投資したあとの回収はどのくらいの期間がかかるか
などなど、購入側には問題が山積しています。
「相手の立場」とは、このようなことを指します。
課題を一緒に解決する姿勢が必要
したがって、これらの問題について「ある程度の答えを用意する」または「一緒に検討する」という姿勢がなければ、このロボットを導入してもらうことは難しいのです。
この場合の「相手の立場に立つ」とは、この購買部長が抱えている問題にできる限り応えられる状態になることを意味します。
営業マンは、相手の会社について、ここまで考える必要があるのです。
しかし、ベテランならともかく、若手営業マンがそこまで想定して準備をするのは確かに難しいと思います。
では、どうすればよいのか。
自社のノウハウをまとめておく
こういったケースでは、過去にも同様の問題が発生しているはずです。
もちろん導入実績もあるはずですから、その成功事例をマニュアル化しておくことが大切です。
特にプレゼン資料はテンプレート化しておきましょう。
こうすることにより、「相手の立場に立つ」の具体的な内容が若手の営業マンに引き継がれることになります。
まさに会社のノウハウを体系的にまとめておくことが重要です。
「相手の立場になって考える」応用事例
課題の答えを用意し、再び提案する
後日、鈴木さんは再度購買部長を訪問し、「もう1度だけチャンスをください」とお願いしました。
まだメーカーの最終決定がされていなかったため、了解してもらえました。
そこで鈴木さんは、先方の人員配置や導入後の稼働イメージ、その際の想定損益計画などを用意し、提案しました。
これには購買部長も納得してくれました。
そして「次回は工場見学をしたい」という前向きなアポを取ることができました。
工場見学は好感触
工場見学の当日。
先方は購買部長のほか、現場の工場長、生産ラインの課長、ライン長も来社しました。
鈴木さんの会社も営業部長、技術部長、AIロボットの担当課長やシステム担当などが同席しました。
工場では、AIロボットの実機を使った模擬生産を見せます。
先方の現場担当の方は真剣に見学し、矢継ぎ早に質問を投げかけます。
鈴木さんの会社の技術系スタッフも適切な応答をします。良い感じです。
そして会議室に戻り、質疑応答が始まりました。
質疑応答で不穏な空気
先方のライン長から質問が出ます。このライン長は女性です。それもかなり小柄な方です。
「弊社の工場には女性が多いのですが、このロボットの操作は簡単ですか?」
「材料の装填の位置が高すぎて、小柄な女性が作業するにはかなり負担になりそうです。もう少し低い設定になりませんか?」
どんどん出てくる現場の声に対して、鈴木さん側は
「機器の高さ調整機能はついていません。高さ調整をすると、操作盤の位置、形状の変更を伴うため、かなりの検討が必要です」
と答えるのが精いっぱいでした。
結局、成約にはなりませんでした。
今回の事例から考える
当初は、営業マン鈴木さん個人のアプローチの問題でした。
彼なりにお客さまの立場になって考え、提案を改善し、工場案内まで誘うことができました。
しかし、メインのロボットが顧客のニーズに合っておらず、失注。
つまり成約には届きませんでした。
なぜこうなってしまったのでしょうか?
開発者が「顧客志向」ではなかった
鈴木さんの会社では、工場の製品開発担当者に「お客さまの立場になって考える」という認識がありませんでした。
せっかく営業段階をクリアしても、製品やサービスそのものにお客さまのニーズや要望が入っていないと、どれだけスペックが良くても、結果として売れないのです。
このような考え方を、マーケティングでは「顧客志向」あるいは「マーケットイン」といいます。
先ほどの工場の製品開発担当者の考え方は「生産者志向」あるいは「プロダクトアウト」といいます。
顧客が求めているものを汲み取る
製品を作る技術者は、作る側の苦労話や、この製品の一番のウリ(スペックなど)の話をしたがるものです。その気持ちはとてもよく分かります。
しかし、顧客が求めているのは、そこではないのです。
顧客が抱えている状況や問題に応えられるかどうかで、成約になるかならないかが決まるのです。
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