IT関係の会社を経営しています。スタッフが気が利かなくて困っています。
先日、来客予定があったのですが、時間まで、私は会社ビル1階のカフェで仕事をしていました。
お客様は、約束より10数分早く到着されていました。早めに来られた場合は、スタッフが私の携帯に連絡をくれるものだと思っていました。
しかしうちのスタッフは、「社長はそのうち来ますから」と、お客様を長い間待たせていました。
事務所に戻ってびっくり、お客様には平謝りでした。
事務所で待機しなかった私も悪いですが、こういう事は、言わないと分からないものでしょうか。
(47歳男性・IT経営)

 
マセ : はい。そうですね。こういうことは、ありますよね。
「スタッフが気が利くか利かないか」が問題なのか、「予定より早く来られたら連絡してね、とルール決めしてなかった」のが問題なのか。

基本、気は、利かない人が多い、と思った方がいいでしょうね。
まずはルールとしてちゃんと伝えることです。言っても、やってくれない人だっていますから。
ミタ : そうですね。何でも細かく決めるべきですか。

マセ : どこまで決めるかっていうのは、なかなか難しくて。いわゆる、「マニュアル化」なんですけど。
マニュアル化については、僕もコンサル業で20数年、常にマニュアル化との戦いです。

東京ディズニーランドのスタッフは

マセ : マニュアルでよく例えに出されるのは、東京ディズニーランドです。
アメリカ本部のマニュアルは事細かに書いてあるんだけど、東京ディズニーランドでは、スタッフの裁量権を、けっこう幅広く取っていて。

マニュアルで「こういう場合はこうしましょう」と書いてあっても、それがお客様にとっては良くない時もあるわけです。その時は、自分の判断で対応できる。これはとても素敵なことだよね。
ミタ : はい。でもかなり能力が必要ですよね。

マセ : そう。その能力に対して、スタッフ同士で評価する制度がある。動機づけの手段としてね。マニュアルどおりが必ずしもいいわけではない、という大前提でやっている。
僕も10数年前に勉強した内容だから、今は多少ルールが違うかもしれないけど。

ただ、ディズニーランドの場合は、常時スタッフが2万人くらいいて。しかも、そこに入ろうと思ったら、ものすごく倍率の高い採用試験がある。
とにかく最初から「ディズニーランドのスタッフになりたい」、モチベーションの高い人が来るんです。

そこから採用して、徹底した教育研修をする。ディズニーランドの心とはどういうものか、お客様に対してどういう考え方なのか、あなた方はそれをどういう具合に実現するか、そういうことをきっちり教える。
これは最初からもうね、違うんですよ。

ミタ : 確かに。集まってくる人の質が違ってますよね。やる気も違うし。
マセ : そうなんだよね。だから、参考になるようでならないです。

フランチャイズ、運営側と加盟側が揉めるわけ

マセ : マニュアルで典型的なのは、フランチャイズシステム、FCです。
飲食店とか教育系とか、いろんな種類があって。高いお金を払って加盟すると、分厚いマニュアルが何冊も手に入ります。

フランチャイズの本部が作るマニュアルは、成功しているであろうマニュアルだから、みんな喉から手が出るほど欲しいんです。
ミタ : はい。

マセ : 技術マニュアル、レシピマニュアル、接客マニュアル、営業活動マニュアル、清掃マニュアル、などなど。全部それなりにでき上がっている。
すごくよくできているものもあれば、「これをマニュアルと呼ぶのか」って感じのものもある。
作る側からすれば、それをどこまで作りこむか、っていうのは、本当にいつも悩むところです。

でも、買う側・それを利用する側は、また違ってて。
フランチャイズの本部のことを一般的に「FCザー」、加盟する側を「FCジー」と言います。
「ザー」がマニュアルを出す側、「ジー」がそれを買って利用する側。

僕はコンサルティングでよく、「ジー」の側のお手伝いをすることがあります。
「加盟して何百万も払って、研修にも行って、いろんなことをやってきたけど、ちっとも売上が伸びない。全然よくならない。なんとかならないのか」と、社長さんはおっしゃいます。

フランチャイズに入っているのに、わざわざ別にお金を出してコンサルを雇う。僕が言うのもなんだけど、変な話だよね。
ミタ : なぜでしょう。最初は本部に聞くんだけど、答えが返ってこないとか?

マセ : 本部は一応マニュアル通りの話をする。「これだけ指導して、これだけマニュアルがあって、この通りやれば、結果が出るわけです。出ないのは、あなたのやり方が悪いんじゃないですか」と。

やり方が悪いなら悪いでいいけど、よくなるように指導してよ、ってなるよね。
それでよく、「ジー」と「ザー」は揉めるわけなんです。
ミタ : はー。大変ですね。

マニュアルを使いこなすには

マセ : そこで、マニュアルってどういうものか、って話なんですけど。

僕らはフランチャイズ本部側の手伝いをすることもあります。なので、マニュアルに書いてある文章の行間を読みます。「こう書いてあるけど、こういうことをしないと絶対うまくいかないな」、と。
だけど、世の中では、その行間を読めない人の方が多いわけで。

ミタ : マニュアルがあっても、肝心なことが書いてないんですか。
マセ : そう。肝心なことは行間に書いてあるから。こうなると、想像力、イマジネーションの問題になっちゃう。

ミタ : でも、想像力がある人なら、マニュアル買わなくても、なんとかなってますよね。
マセ : そうだよね。だからフランチャイズに入っているわけで。難しいよね。
ミタ : うーん。だから商売になる、とも言えますし。

マセ : 例えば、お客様を開拓するために、こういうスタッフを雇って、こういう教育をします。次に第一弾としてこうします、第二弾はこう、第三弾はこう、第四弾で別のスタッフがこう動きます、第五弾でクロージングします。問題点があれば、その時に相談します、やり方はこうです。
ここまで詳しく書いてあれば、相当いいマニュアルだよね。

ところが、それはコンサル的な発想でできていて。マニュアルは大抵、コンサル業の人間が作るから。
なので、例えば僕が読んだら、「ああ、こうやればいいんだ」と読み取れる。
だけど、一般の社長さんは、「書いてあることは分かる、けど具体的にどう動いていいのかさっぱり分からない」という状態になりがちです。

ミタ : それは困っちゃいますね。
マセ : じゃあマニュアルはコンサルじゃないと使いこなせないのか。そうではなくて、行間の読み取り方を知ってるか知らないかなんです。

試行錯誤は、やっぱり必要です

マセ : 僕がよくお伝えしているのは、「フランチャイズに加盟するのは構いませんよ」ということです。
もし仮に同じものを自分で開発しようと思ったら、いつでき上がるかさえも分からない。コストもかかる。
それを短時間で買えるんだから、とってもいいシステムですよ、と。

ただし、フランチャイズからもらえるのは、社長が思い描いているうちのせいぜい2割です。
残りの8割は、自分たちで作り上げるものだと思った方がいいですよ、と。
ミタ : 2割ですか・・・。

マセ : 「2割のために、あんな高いお金を払うんですか」って思うよね。
でも、加盟金は一般的には500万円くらい。ノウハウを500万円で買えるなら、そんなに高いもんじゃないですよ。500万円って言ったら、年間1人の人件費くらいですから。
ミタ : 確かにそうですけど。

マセ : ただ、FC本部はピンキリなので。加盟するときは、よく調べて、よく話を聞いてから、です。
で、加盟しました、マニュアルもらいました。だけどね、業務の流れは書いてあっても、お客様の集め方とか、お客様がリピーター化する方法とか、そういうことは、書いてあるようで書いてないんです。

笑顔で「いらっしゃいませ」と言いましょう。でも実際、笑顔でいらっしゃいませできる人は、なかなかいない。

だから、デパートなんかは毎朝、開店前に「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」「少々お待ちくださいませ」って練習するんです。がらーんとした店内で、みんな一斉に笑顔を作ってね。
外から見るとけっこう不気味だけど。それを普段から繰り返して、ようやく自然に出るようになるんです。

それを、「君、今日からよろしくね、これがうちのマニュアルだから、よく読んでやってね」。
その通りに人がちゃんと動いてくれたら奇跡ですよ。
ミタ : そうですよね。

教えれば気づいてくれることも多いので

マセ : あとね、性格心理学的に言えば、気が利くタイプと利かないタイプ、明らかにあります。
僕が参考にしている性格心理学の中で、「相手のことを気づかう」という要素があって。
男女合わせて、この要素を強く持つ人は、世の中の3割くらい。もう少しいるかな。

ということは、3割くらいの人は、「気を利かせろ」と言わなくても、少し教えれば、まあまあ満足いく人材になると思う。残り7割は、なかなか根気がいると思った方がいいです。
ミタ : 結構大変ですね。

マセ : ただ、気が利かないというのは、単純に、「知らなかった」ケースも多いので。
今回の出来事を教訓に、ちゃんと指導して。そこで、はっと気づく人は、良し、です。
「そんなの知らないし別に・・・」と言うタイプは、まあ様子を見て。簡単にクビにはできないですからね。

僕も昔、似たようなことがありました。ショックでしたよ。
だけど、しょうがないよね。「そのぐらいのこと分かってると思ってた、こちらが悪い」と考えて。
一つ一つ改善して。お客様には、その度に謝るしかないです。

まあ時々、どっかの議員さんじゃないけど、「ち~が~う~だ~ろ~!」と言いたくなることもあるかもしれないです。社長も人間ですからね。でも、上に立つ者としては、ちょっと抑えてね。
ミタ : 忍耐ですね。

(2017年6月収録)

【今回のあなたに贈る1曲】
『星に願いを』 ディズニー (1940年)
ディズニーランドから帰る時に流れる曲。「また来てね~」という雰囲気で、また行きたくなります。
穏やかな明日を。